金魚鉢

舞台演劇の話。

舞台演劇に不可欠な要素/聖地ポーカーズTRAD 黒帯三昧『ブレメン』

※この記事は2017年11月に終演した舞台「ブレメン」の作品紹介&レビュー記事です。文章の中に多少のネタバレを含みますのであらかじめご了承ください。

 

 公演概要

公演名
聖地ポーカーズTRAD・黒帯三昧 「ブレメン」

劇場
赤坂チャンスシアター
東京都港区赤坂2-6-22デュオ・スカーラⅡB1F

公演日程
2017年11月17日(金)〜19日(日)

 

 

イントロダクション

“俺たちはやり直せる 何時でも、何度でも・・・”
とあるオフィスの一室に集められた男たち。
各方面より選りすぐられたエリート社員である彼らは、
会社の業績不振を解決すべく、新規事業開発チームを結成。
持ち前のエリート的気質と能力で、一発逆転の大事業を創り出す!
—————はずだった・・・

◎キャスト
・主演
加藤凛太郎

ダブルキャスト
池永亜美 稲垣希

・スイッチキャスト
橋本達也 早川剛史 程嶋しづマ

公式サイトより引用)

 

 

 

 

2017年11月17日。

聖地ポーカーズTRAD 黒帯三昧「ブレメン」を観劇しました。

「ブレメン」は、元々演劇ユニット「THE 黒帯」が2014年に公演した作品であり、またそれを当時観劇したプロデューサー・酒井りゅうのすけさんによって聖地ポーカーズTRADとして2017年1月に一度目の再演を果たしているため、今回の公演では再再演となります。

 

最初に公演をおこなった「THE 黒帯」が本年で旗揚げから10周年を迎え、また同時に観劇三昧 が主催した手のひらフェスティバル で旗揚げ公演「TRUCE」が見事大賞に輝いたことを記念し、半年以上に渡り「黒帯三昧」と題して聖地ポーカーズTRADとタッグを組み、過去公演の上映会やイベントが行われてきましたが、今回の再再演はその一環であります。

 

私が一月に、はじめてこの「ブレメン」を観劇した際、どうしようもなく楽しくて、どうしようもなくこの作品を好きになってしまって、なんだかわからないけどとてもとても、満たされた気持ちになったのを覚えています。

今回はその「なんだかわからない」部分に焦点を当てて、「ブレメン」という作品がどのような作品であるかを考えてみました。

以下、レビューになりますが、軽微なネタバレを含みますので、これからDVD等でご覧になる予定の方で、少しでも事前に情報を入れたくない、という方はご注意ください。

 

 

 

 舞台演劇に不可欠な要素

舞台「ブレメン」の話をする前に、皆さんは舞台演劇に不可欠な要素はなんだと思いますか?

舞台演劇には挙げきれない程の情報や要素が詰まっています。むしろどれだけでも、時間や予算などが許す限り、詰め込むことが可能なのではないでしょうか。その在り方は「無限大」であるといえます。

 

では逆に、「無限小」とでもいいましょうか、膨大な要素を持つ舞台演劇の中で、舞台演劇たらしめる絶対の要素。言い換えれば「これがなくては舞台演劇は成立しない」というナニカ。それを「無限大」の中から、舞台演劇に不可欠な「無限小」を選び出すとすれば、それはなんだと思いますか?

 

私にとって演劇に不可欠な要素とは、「役者」と「観客」、この両者であると思います。

 

衣装でも効果音でも照明でも舞台装置でもありません。「役者」と「観客」。

 

両者さえいれば、いつでもどこでも演劇ははじまってしまう。逆説的に言えば「役者」と「観客」が出会う場所が舞台であり、同じ時空間を共有することで初めて作品はこの世に表れるのではないでしょうか。

つまり、演劇を演る、という行為に対して同じ時空間の中で演劇を観る、という動作がなければ演劇は演劇たりえない。だからこそ観劇という行為の本質は劇場に赴き、客席にすわり、目の前で、生きている人間がつくりあげていく一言一言、一挙手一投足に心を寄せることであるとも思えます。

 

 

さて、この「ブレメン」という作品を語るにあたり、これはもうどうしようもなく、疑いようがないのではないか、と強く思ったのです。

 

この公演が上映されている赤坂チャンスシアターは、40席程度の劇場で、舞台と客席が超至近距離。この空間の中で、「ブレメン」という作品は上演されているわけでありますが、この作品ほど、そしてこの劇場ほどに、観客と役者の作品を介した対話を、そして演劇に不可欠であるのは「役者」と「観客」であることを実感させてくれる面白い作品はない、と断言します。

 

その理由の一つに、冒頭と末尾に挿入される主人公「黒場」のモノローグが挙げられると思います。

正確には、この部分はモノローグとは言い切れません。モノローグの定義を調べると、「劇で、相手なしに言う台詞(せりふ)。」と、あるからです。

冒頭と末尾のとあるシーン。舞台上には、黒場一人。あとは音楽を奏でる演奏家がいるのみです。

しかし、黒場はあくまで語りかけます。

「軽い暇つぶしのつもりで聞いて下さいよ。」と。

ここで、きっと観客は作品に取り込まれているのだと思います。「聞き手」として作品に内在することを許可される。

 

そして、本来当たり前のように行われる作品の傍観、「観劇」に意味が与えられる。「聞き手」として、舞台「ブレメン」を経験することになります。つまり、私たちも「ブレメン」の当事者になることが黒場の語りかけによって出来るようになるのです。

だからきっと、ブレメンは面白い。作品の中で、舞台上の役者や制作と、客席の観客。この両側があり、双方向的に、相乗的に「ブレメン」という作品をつくりあげていると。

 

さらに、赤坂チャンスシアターという劇場が、このことを際立たせます。舞台と客席とが一体となったような劇場。観客も作品と渾然一体となった「ブレメン」という作品の真価は、まさにこういった劇場だからこそ何倍にも感じられるのではないでしょうか。

演劇の中に観客というのは確かに存在していて、殊にこの「ブレメン」は作品と一緒に在るという事を、どこか作品の一端にいる、と、最初に提示してくれる。そのおかげでより一層、観客は作品に対して積極的に、そして当事者のようにのめり込んでしまう。

だからこそ、劇場に「いる」ということを、その意味を、そして舞台演劇がどうして面白いのか、そんなことを肩を揺さぶるように思い出させてくれる、そんな作品であると思います。

 

更に、この「ブレメン」は荘厳な舞台装置ではなく、舞台上に目立つものといえばパイプ椅子とスネアドラムのみ。登場人物はたった5人。全員スーツ。大きな場転は殆どないといって差し支えない。

 

それなのに、どうしようもなく面白く、「劇的」。

前述のような脚本の構成や時間を遡る演出等々の妙はさることながら、やはりこれだけの脚本を魅せる役者さんの力をひしひしと感じました。

観客がいることに意味があるとはいえ、やはりなによりも語られるべきは役者の皆さんの技量と魅力です。

 

作品の性質上、間延びするような、機械的に処理されがちな「繰り返し」の部分があり、ともすれば飽き飽きとしてしまうような場面も、観客の心を離さない。

それぞれがそれぞれの手腕を揮い、この作品を更に更に魅力的に仕上げていらっしゃる中で、役者さん同士の信頼関係もハッキリとみてとれる。

作品の素晴らしさやその効果もさることながら、役者さん方の素晴らしさ、シンプルな装置の中での5人芝居で各々がもつ個性や技量など身を以て体験させてくださった印象でした。

 

スイッチキャストで公演ごとに2役を交互に演じている早川剛史さん・程嶋しづマさん・橋本達也さんが毎公演見せる役の顔、見事に2役を演じあげるその辣腕で作品の基盤を作り上げ、そしてダブルキャストで違った魅力を見せてくださる稲垣希さん・池永亜美さん、更にこの2チームの変則的なキャスト変更の中で確固とした芝居をみせてくださる加藤凛太郎さん。

 

みなさん本当に凄い方ばかりです。何度みても笑わされて魅了されてしまう。

なんだかんだと言いましたが、難しいことをこねくりまわしたりしなくたって、十二分にこの作品はとにかく楽しく面白いです。なんだか幸せになります。

 

そして脚本・演出・制作・役者、どこをとっても本当に、劇場でみることに意義が深い作品だな、と思います。

 

劇場にいて、笑って、少し泣いて、心を揺さぶられて、そんな心の機微がわずかに作品の中に掬いあげられていく。

あぁ、演劇だなぁ。楽しいなぁ。好きだなぁ。そんな気持ちで劇場を後にした作品でした。

 

 

舞台ビジュアルなどの情報は公式サイトブレメン へ!