金魚鉢

舞台演劇の話。

【書評】事故のすゝめ / 「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」

 

 

つい先日、知人がポツリと私にいった。

 

「結婚なんて事故みたいなモンだからね。」

 

 

 

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと / 花田菜々子

 

 

 

 

 

 

 

「変人の面白エッセイかと思いきや、凡人(と思っている人)全員が刺激される強烈な自己啓発本です。もはや実用書! 」
ーー能町みね子

 

 

【内容】

夫に別れを告げ家を飛び出し、宿無し生活。どん底人生まっしぐらの書店員・花田菜々子。仕事もうまく行かず、疲れた毎日を送る中、願うは「もっと知らない世界を知りたい。広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」。そんな彼女がふと思い立って登録したのが、出会い系サイト「X」。プロフィール欄に個性を出すため、悩みに悩んで書いた一言は、「今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」———。

実際に出会った人達は魑魅魍魎。エロ目的の男、さわやかに虚言癖の男、笑顔がかわいい映像作家……時には自作ポエムを拝見し、かわいい女子に励まされ、優しい女性のコーチングに号泣しながら、今までの日常では絶対に会わなかったような人達に、毎日毎日「その人にぴったりの」本を紹介。え、もしかして、仕事よりもこっちが楽しい?!

サイトの中ではどんどん大人気になる菜々子。だがそこに訪れた転機とは……。
これは修行か? 冒険か? 「本」を通して笑って泣いた、衝撃の実録私小説!


◎目次

プロローグ 2013年1月、どん底の夜0時

第1章 東京がこんなにおもしろマッドシティーだったとは
第2章 私を育ててくれたヴィレッジヴァンガード、その愛
第3章 出会い系サイトで人生が動き出す
第4章 ここはどこかへ行く途中の人が集まる場所
第5章 あなたの助言は床に落ちてるホコリみたい
第6章 私が逆ナンを身につけるまで――――そしてラスボス戦へ
第7章 人生初のイベントは祖父の屍を越えて

エピローグ 季節はめぐる、終わりと始まり

あとがき 2017年秋、本屋の店先で

 

amazon 商品紹介ページより引用

 

 

 

只今、私は大学4年生であり就職活動の真っ只中にいる。

今日も今日とて、某社の企業説明会に参加し、意味ありげにふむふむ、なるほどですね!なんて顔で相槌を打ち、全てを理解したような面持ちで「ありがとうございました!」と爽やかに挨拶をし、会場を後にする。

 

いつまで続くのだろうか、もうやめにしたいな、などと考えながら足早に駅に向かう途中で、吸い込まれるように駅前の書店に入り、さも当然かの如く本書を手にし、会計を終え、駅から電車に乗ったのが18:02であった。

 

 

そして今、22:00をまわったところで私はこの書評を書き出している。

約4時間。帰路も夕飯時も夢中になって、気づけば本書を読み終えていた。

 

 

目に飛び込むようなビビットイエローと、ゆるりとしてかわいらしいイラストの書影が鮮烈な印象を与える本書のタイトルは「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」である。

 

ポップなフォントとは裏腹に、なにやら怪しげで訝しげなタイトルである。どんな内容なのだろう。そう思い本を開くも、故あって夫との生活から別離することを決意し、家を飛び出しネットカフェやらカプセルホテルやらを転々としている花田さんの行き場をなくした閉塞感をじわりと感じる書き出し。

 

あぁ、離婚してそのまま本をキッカケに新しい彼に出会って幸せになりました、みたいな本なのかな。と早合点しながらも読み進めると、そんな二束三文にしかならないような恋愛エッセイなどではなかった。

 

 

ブログ冒頭の引用文で示した能町みね子氏の帯コメントが言い得て妙、という他ない。

 

 「変人の面白エッセイかと思いきや、凡人(と思っている人)全員が刺激される強烈な自己啓発本です。もはや実用書! 」
ーー能町みね子

 

 そう、この本は著者の経験を通して「自分は何者か」「なにがしたいのか、どうなりたいのか、どこへ行きたいのか」という問いを私に提示してきたのであった。正直、眩暈がした。

 

 これを読んでいる貴方は、自分が何者で、なにがしたくてどこへ向かっているのか、今じぶんがどこにいるか、矢継ぎ早に語れるだろうか。

 

 

Who I am?

 

冒頭でも申し上げた通り、私はいま絶賛就職活動中である。ぶっちゃけ書評書いてるヒマがあるならエントリーシートを書かなければならないご身分である。

 

そんな就職活動において、否が応にも突きつけられる質問がある。

「なにがしたくて、どこにいきたいと思っていますか?」「なにができますか?」「あなたは一体何者ですか?」

 

再三言うが、眩暈がする。そんなのは私が聞きたいくらいだ

でもきっと、「自分は何者か?」そんな漠然とした不安や疑問を抱えている人は少なくないんだろうと思う。

 

本書は、そんな人にこそ読んでほしい一冊である。

 

この本の著者である花田菜々子氏も、また同じ問いに突き当たった一人であった。そしてここには、花田さんが「問い」に対して「答え」を見つけていく旅程が記されている。

 

それは、出会い系サイト「X」でその人にぴったりの本を勧める、という方法で人と出会い、世界を広げる旅。

 

自己と向き合うのに外に出ていく、というのは実に奇妙な響きを持つように思えるけれど、自己なんてものは結局、他者を介することでしか見いだせないものである、と私は思う。

 

 

 

事故のすゝめ

さて、ここで唐突に記事の序文に示したとある知人の言葉に戻ろうと思う。

「結婚なんて事故みたいなモンだからね。」

 

多分きっと、結婚はしないんじゃないかな。とこぼした私に知人はこういったのだった。

 

 結婚は事故。そもそも「事故」という言葉がもつ意味合いは、

思いがけず生じた悪い出来事。物事の正常な活動・進行を妨げる不慮の事態。「事故を起こす」「事故に遭う」「飛行機事故」

事故(じこ)の意味 - goo国語辞書より引用

である。

 

なるほど、思いがけず、それは唐突に我々に襲い来て、人によっては嵐のように去っていく。

 

とするならば、それは結婚だけでなく、恋愛そのもの、もっといえば生まれてきたこと自体がそもそも事故なのではないかな、とふと。

 

 というより、私は人生は事故の連続であると思う。どれだけ平和に生きていこうとしても、むしろ予定調和であるかの如く事故る。受験に失敗するのも、就職に失敗するのも、歩いていこうとしていた道から違う道に急に押し出されてしまう、そんなような事故だ。

 

人との出会いもそうだ。思いがけず出会い、思いがけず友達になったりならなかったり、うっかり恋人になったりならなかったり、そうして結婚に踏み切ってしまうことも事故。実際、恋は"落ちる”という。落下事故なのである。この人生は事故だらけ~である。

 

事故が起きるということは意味のとおり悪い出来事に襲われるということであり、ほとんどの場合思わしくない結果だけが残る。そう、大前提として出会いも人生も恋愛も事故なのだから、基本的にはマイナススタートである、というのが私の持論になりつつあって、ピンキリであるが、少なからずケガを伴う。再起不能と思えるまでのケガを負うこともあるだろう。

 

 

しかし、「人間万事塞翁が馬」という言葉があるように。「怪我の功名」という言葉があるように。「災い転じて福となる」。

 

事故は、結果として思わぬ幸福を招くことがある。

 

それは、変化。人は人との直接の出会いであるとか経験だとか、または作品を介した交流という名の正面衝突の中でしか新たな価値観であるとか、新たな知見を得ることは出来ないであろうと私は思う。

 

何が待ち受けてるかは誰にもわからない、未知との遭遇

 

そして本書の場合、語弊を恐れず言うならば、著者である花田さんはまず結婚生活に於いて事故を起こした…といえる。

 

 そこで負傷した著者がとった行動は、負傷をまじまじと見つめ悲観することではなく、もっと「事故る」ことであった。出会い系サイト「X」へ登録し、そこから70人と出会い本をすすめる旅、もとい、70回の事故への挑戦が始まったのであった。

 

 実際、本書を読むとよくわかるが最初の2人は中々見事な事故り具合である。 文字通り彼らが花田さんに求めていたのはToLoveるであった。

 

そんな紆余曲折はあるものの、

 

世の中本当にいろんな人がいる。そして意外とみんな好きなように生きてみたりしていて、

 

「会いたい」といえるだけのちゃんとした理由があれば、そんな特別なことではなく、だいたいの人とはあえるものなのかもしれない。

 

この本を読み終えた今、先ほどまで抱えていた憂鬱な気分がどこへやら、この世の中に溢れる出会い――事故に心を躍らせている。だって、それはきっと私に変化をもたらしてくれる素敵なことであるに違いないと、本書が教えてくれたからだ。

 

 だから私は本書を「事故のすゝめ」であると言おう。

 

花田さんがそうであったように、

人はやれないことなんてないのだと、どんな風にだって生きていけるのだと、

 

 

 

 願わくば、次の企業では私の益々の発展をお祈りされるような事故を起こしませんように。